何みて・・・? 「質問なんだが…。」 真剣な顔をして見上げてくるプラチナ。長い耳までピンと伸ばしている様が愛らしくて、自然とジェイドの表情も和らぐ。 「何でしょう?」 朝食が終わり、くつろぎのひととき。 プラチナがここにやってきて3日。その間にジェイドの屋敷は様変わりしていた。 一人暮らしには必要のなかった家具、特に生活必需品が増えた。今、彼らが食事をしているシンプルなテーブルもその中のひとつだった。 プラチナには子供用の高めの椅子を用意して、同じテーブルで食事をできるようになっている。 それでも、僅かに高いテーブルから懸命に顔を出そうと伸びをする姿がまた愛しい。 「何でジェイドは俺のことを様付けで呼ぶんだ?」 それは至極尤もな問いだった。普通、飼っている(同居している?)小動物を様付けで呼ぶことなどしない。それなのにジェイドはいつもプラチナのことを様付けで呼ぶのだった。 「なぜ、と言われましてもねえ…。別に大した意味はないですよ。」 さらりと答えられてプラチナは納得がいかないとばかりに耳を片方下げた。その表情もどこか不満げである。 「そうですね、あえて言うならば…。どこか高貴な雰囲気があったから。という感じですかね。」 そう言って笑ったジェイドにプラチナは首を傾げる。 「それではお前は品のある猫に対しても恭しく接するのか?」 「しませんよ、そんな…。」 ここで否定されたことで、プラチナは混乱してしまう。 「あなただからですよ、プラチナ。私にはあなたが高貴な生き物に感じられた。だからそうするだけです。」 プラチナは首を傾げてジェイドを見上げていたが、ふいに顔を真っ赤にして俯いた。初めて呼び捨てで呼ばれたのに戸惑ってしまったらしい。 「おやおや、可愛いですねえ。」 ニヤニヤと笑っているジェイドを軽く睨み付け、プラチナは椅子から飛び降りた。 マントがふわりと翻り、続いてトンという軽い音。 世にも珍しい、服を着た人型の白ウサギ。マントが翻ったせいで、下に着ている青いライダースーツがちらりと見えた。 「……プラチナ様、私も知りたいことがあるんですが。」 からかわれて拗ねていたプラチナだったが、ジェイドの言葉に振り返った。 「何だ?」 ぶっきらぼうな言い方だが、その姿でされても愛らしいだけで迫力など微塵も感じられない。 「ええと、本当に今更なんですけどね…。」 「だから、何だ?」 なかなか言い出さないジェイドがじれったいのか、プラチナは片足で地を蹴りトントンと音を鳴らした。 「プラチナ様は、…ウサギですよねえ?」 本当に今更な問い。思わずプラチナは怒りも忘れて呆然とした。 「……ウサギに、見えないか…?」 こうして真剣に問われると自分に自信が持てなくなるようで、プラチナは答えながら自分の大きな耳に触れた。 「形はウサギよりも我々に近いですからねぇ…。一目見ただけではわかりづらいかもしれませんね。」 ジェイドはプラチナの元に歩み寄り、そっと耳に手を伸ばした。 「失礼しますよ。」 ひんやりとして柔らかい感触が伝わってくる。撫でられる感触にピクピクと動くのが面白い。 「本物ですよねえ…。」 ジェイドがしみじみと呟くとプラチナはその手から逃れるように数歩後退した。 「わかったらもういいだろう?」 「いえ、まだですよ。今のは確認です。私が知りたいのはそれじゃなくて……。」 どこか不穏な空気を纏うジェイドに手招きをされて、プラチナは嫌な予感を覚えつつも少しずつ近寄った。 「ウサギといったら長い耳、それからもうひとつ…。」 言うなり、プラチナのマントをめくった。 「―――――――!!!?」 プラチナは信じられないというように目を見開く。めくられたそれの下、プラチナの細い腰の辺りに白くてふわふわとしたシッポが見えた。 「ああ、ちゃんとあるんですねえ、シッポ。」 満足げに言う相手をプラチナは涙目で睨み付ける。 「な、……ッお前!!」 その過剰な反応が楽しくて、ジェイドはつい笑ってしまう。 「かわいいシッポじゃないですか。そんなに隠さなくてもいいでしょうに…。」 ジェイドがプラチナに手を伸ばす。 「―――――や、ヤダッ!!来るなっ!!」 じりじりと近寄ってくるジェイドに、プラチナは壁際に追いつめられた。 「はい、どうします?もう逃げられませんよ?」 手を伸ばしてきたジェイドにプラチナは必死で頭を隠して丸まった。マントの中から耳の先だけが見えている。 「えーと…、プラチナ様?」 困ったようなジェイドの声に、プラチナは少しだけ顔を覗かせた。先程までの悪戯心に満ち満ちた笑顔ではなく、今はただ苦笑しているように見える。 「―――――?」 ジェイドのその変貌の理由もわからなかったが、同時にプラチナの頭によぎった疑問があった。 つい被ってしまったこのマントはこんなにも長かっただろうかと首を傾げ、そしてそれを確かめるまでもなくハッとする。 夢中でマントを引き上げて頭から被ってしまったため、必死で隠そうとしていたシッポが丸見えの状態となってしまっていたのだ。 「あはははは、堪能させていただきましたよ。」 内心やりすぎたと反省しつつもからかうことは忘れない。 「―――――っう……ぅう…。」 顔を真っ赤にして瞳には涙をいっぱい溜めて、プラチナは低く唸っている。 「あー、すみません、やりすぎました。」 このままでは睨み合いから一向に発展しないと思い、とりあえず非があるジェイドが声をかける。 「…っ、ジェイドの……、ジェイドのあほうッ!!!」 思いっきり叫んでプラチナは自分の部屋へと駆け込んでいってしまった。 「やりすぎましたねえ…。」 一応反省はしているのだが、緩んだ表情ではいかんせん説得力がない。というのも、恥ずかしさと怒りがない交ぜになった顔で思い切り睨み付けてきたプラチナの走り去る後ろ姿。 勢い良く駆け出したせいでマントがめくれて、シッポがしっかりと見えていたのだ。頭は良いのにそういった面で抜けているところがあまりにも愛らしくて仕方ない。 「もうこんな時間か…。」 朝ご飯の片づけを終えたジェイドが壁掛けの時計を眺め呟く。 約束に間に合わせるにはギリギリの時間。ジェイドは出掛ける支度を始めた。 部屋に篭ったまま出てこないプラチナが気になったが時間に遅れるわけにもいかず、ジェイドはプラチナに声をかけぬまま家を出た。
〜continue〜
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