十五夜 銀色のウサギは月に何を見ているのだろうか 気付くと空を 月を見上げて 悲しそうな顔をする 「風流ですね、お月見ですか?」 柔らかな月明かりに照らし出された横顔は今にも泣き出しそうに見えて、それを痛ましく思ったジェイドは静かに声をかけた。 「月見…、そうだな……。」 肯定までに間があった。薄らと笑んだ表情は無意識なのか、少し自虐的で…。 ジェイドはゆっくりとプラチナを抱き上げると、中庭を一望できる窓辺に腰掛けてプラチナを膝に座らせた。 「ここのところ元気がありませんね…。食事もあまり食べないし、夜もあまり眠ってない。倒れてしまいますよ?」 何より、笑顔を見ていない。長い耳の付根をなでてやるとプラチナは心地よさそうに目を細めた。 「家に…、仲間の元に帰りたいのでしたら……、お手伝いしますよ…。」 プラチナがどこから来たのかはわからないままになっている。初対面で仲間のことを聞いたとき『いない…。ここには。』そう言って寂しそうにする姿を見て、それ以上を問いただすのが躊躇われたからだった。しかし、仲間のいない寂しさゆえにプラチナがこのまま弱っていくのであれば、何としても仲間を探し出して会わせてやりたいとジェイドは心からそう思った。 プラチナがいなくなるということは、また孤独に戻ることだとわかっていながら…。 「―――――ジェイドは、俺がいなくなっても平気…なのか……?」 痛みを耐えながら言ったジェイドの言葉に、プラチナは青い瞳を幾度も瞬かせた。 「あなたが行きたいのであれば…どうぞ。気にしなくていいですよ。元に、戻るだけですからね。」 平静さを装って言葉を発すれば、意外にもそれはスラスラと口から出てきた。 「――――ジェイドは、俺のことを……いらない、のか?」 大きな瞳が潤んでいる。 「そんなこと、ありませんよ。俺は、あなたに会って初めて『生きて』いるということを知ったんですから…。あなたが、何よりも大切です。」 プラチナを抱きしめて、顔を見られないように耳元で囁く。 「……………。」 プラチナはおとなしくジェイドの言葉に耳を傾けていた。 「でもね、俺と一緒にいるためにあなたが無理をして死んでしまったら…。その方がずっと嫌ですから……。」 腕の中でプラチナが小さく頷く。 「だから、探しましょう?あなたの仲間を…。あなたがそれで幸せなら私は、大丈夫ですから。」 その言葉を聞いて、プラチナは必死でもがいた。両腕を突っ張って体の間に空間を作り、ジェイドを見上げる。 「………嘘だ。」 ジェイドが驚く番だった。 「何が嘘なんです?私は本気で…。」 「お前は嘘をつくとき、自分のことを『私』と言うんだ。そんな苦しそうな顔をして…、嘘なんかつかなくていい。」 プラチナの言葉にジェイドは苦笑した。 「そんなに酷い顔してました?」 「この世の終わりみたいな顔だったぞ。」 耳をピンと立ててプラチナは笑う。 「それは…、かっこ悪いですね…。」 嘘をつくのは得意だったんですけど、と笑うジェイドの襟首を引き寄せて、プラチナは微かに顔を赤らめながらその頬に口付ける。 「俺が悪かったんだ…。随分一緒にいたのに、俺のことを何も話さなかった…。」 プラチナはジェイドの胸元に背中を預けるようにして凭れた。 抱きしめるように廻された腕に小さな手を重ねて、ぬくもりにうっとりとするように瞳を閉じる。 「俺のことを全部、話す…。ジェイドに…聞いて欲しい……。」
〜continue〜
|