うしゃぎさん 1

神の使い。
神に直接会い仕事を言渡される、神が最も信頼を寄せる存在。
その“神の使い”の長の位を授かったセレスは誇らし気に笑った。
頭には白くて大きなウサギの耳がある。天使とは違う、特別な存在であるという証。
セレスは耳をぴんと伸ばすと、自分の下僕達に言った。
「今日から僕が君達の長だ。敬いたまえよ!」
ビシっとキメた…はずなのに。
当の下僕達はなんにも考えてなさそうな顔でふわふわと飛んでいた。当然セレスの言葉など聞いちゃいない。
下僕達はセレスと違い、姿形がウサギそのものだった。普通のウサギとの違いといえば、背中に小さな羽がはえている所くらいだ。
「聞いてるのかい!?」
近くを飛んでいたウサギを1匹鷲掴みにし怒鳴るが、相変わらず何も考えていなさそうな顔(実際、何も考えてないのだろうが)で無反応。セレスの怒りだけが空回りしている。
セレスはがくりと耳と羽根を垂らし
「虚しい…」
と、就任初日から疲れ果てていた。





「どうした?」
ウサギを掴んだまま地面にへたり込んでいるセレスに、“彼”が声をかけた。
「どうしたもこうしたも…」
掴んでいる手に力がこもる前に、ウサギはするりとセレスの手から抜け出した。くるくると舞うように彼のまわりを飛びまわる。
「ああああぁ! その気の抜ける顔!ふざけた飛び方!何も考えてない頭!“うしゃぎ”という変な名前! 君は一体何を考えてそんなものを作ったんだい!?」
騒ぎたてるセレスに、彼は「ん〜」と可愛らしく首をかしげた。
「セレスは“うしゃぎ”さんが嫌いなのか?」
「僕がそれと同じ種族だと思うと頭にくるね」
「しかし、仕事はちゃんとこなしてくれるし…。それに、かわいいじゃないか」
褒められたのがわかったのか、うしゃぎ達は彼の肩や頭の上に乗っかってくる。セレスのほうにもやってきたが、セレスは嫌そうな顔をしてそれを叩き落とした。
「それなら、僕のこともかわいいとか思ってるのかい?」
嫌味のつもりで言ったのだが
「かわいい」
とあっさり返された。
真っ赤になって大人しくなったセレスに、彼は「?」とした顔で覗き込んでくる。
「君ね……」
天然で口説いてくる彼に脱力し、セレスの怒りはどこかへふっとんでいった。