聞こえない悲鳴
「歌を、うたえ」
白銀の髪をもつ喜悦を司る悪魔が、怯えた表情をしている子猫にそう命じた。
しかし子猫は困惑の表情を見せるだけで、悪魔が望む歌をうたおうとしない。
「何をしている。うたえ」
「…、……」
子猫は何かを訴えようと口を開くが、次の瞬間
「――――――ッ!!」
その顔が苦痛に歪められる。歌わないことに苛立った悪魔が、子猫の首に牙をたてたのだ。
どろりと首をつたう、赤い血。
深く牙が食い込んでいるにもかかわらず、子猫は息を飲むだけで悲鳴をあげたりはしなかった。
正しくは、あげられなかった。
子猫は声が出なくなっていた。
悪魔が悪魔になったばかりの頃、子猫が何度も何度も悪魔の名前を呼ぶものだから。
その声を聞く度に、悪魔の中の何かが揺らぐから。
だから悪魔は子猫の喉を、潰してしまった。
賛牙の歌は、声帯を必要とはしない。
だから変わらず歌わせ続けたが、子猫は声の代わりに光の歌で悪魔を呼び続けた。
悪魔は賛牙の歌をうたうことを禁じた。
それでも悪魔は歌を望んでくる。
賛牙の歌は、うたえない。
声がでないから、ただの歌もうたえない。
どうすることもできずに子猫が困惑すると、悪魔きまってその身体に牙をたててくる。
そして息を飲む空気の流れを感じとり、少しだけ満たされるのだ。
そのまま華奢な身体を押し倒し、身に纏っている衣を乱暴に剥ぎ取る。
前戯もなにもせぬまま子猫の中に欲望を埋め込むと、子猫は悪魔の首にすがりつき、声なき悲鳴をあげた。
容赦なく中を攻め立てられ、子猫の身体が哀れなほど軋む。しかし、この行為に慣れさせられ過ぎた身体はすぐに反応を返し始めた。
「――っ、ライ、ライ…っ!!」
喘ぎながら、その唇は悪魔の名前を形どる。
悪魔はそれすらも許せないかのように、荒々しく子猫の唇を、塞いだ。
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