あたたかいの
「寒い」
黒光りする尾でシーツを叩きながら、不機嫌そうにコノエは言った。
その隣で寝そべっていたヴェルグは、いきなり何を言い出すのかと、突然我侭を言い出す己の眷属を見た。
「寒さなんか感じねーだろうが」
かつて猫のコノエを閉じ込めていた冷たい石の部屋ならまだしも、今は悪魔に転化し、暖かなベッドのある部屋にいる。寒さなど感じないはずだ。
「昔はずっと服着てたんだから、裸のままでいたら寒いって思うに決まってるだろ」
この空間に連れてきてから今まで、コノエに服を着せたことはない。もちろん今もそうだ。
服を着ているのが当り前だったせいで、何も着ていないという状況に慣れないのだろう。
めんどくせぇなと思いながら、ヴェルグが身体を起こすと、コノエの細い腰を引き寄せた。
「服なんか着せたら、ヤリたい時にヤれねーからな」
口の端をつり上げてそう言うとコノエの尾がピンと立ち、怒りも露にヴェルグの耳をひっぱった。
「いてぇっ!コラ、離せチビ子!!!」
「うるさい!結局あんたにとって俺は餌のままなのかよ…!」
そう言った所で、コノエはヴェルグの耳を離すと、力なく尻尾を垂れさせた。
急に怒り出したと思ったら、次の瞬間には落ち込んでいる。快楽の悪魔の眷属にもかかわらず、コノエは今だ感情が豊かだ。だからこそヴェルグを惹き付けてやまないのだが。
「まだそんな事言ってんのか、チビ」
コノエの肩がピクリと揺れ、力なくヴェルグを見上げる。
ヴェルグは居心地悪そうに己の髪をぐしゃぐしゃと掻き回すと、コノエと視線を合わさずに言った。
「お前を抱くのは食事目的じゃねえって、言ってるだろうが。そんなに信じられねーのか?」
「信じてない、わけじゃないけど…」
悪魔は嘘をつかない。ヴェルグが嘘を言っていないのはコノエがよくわかっている。
また感情にまかせて酷いことを言ってしまったとコノエが落込んでいると、ふわりと暖かいものが肩に落ちてきた。
「…?」
何かと手に取ってみると、それはヴェルグがいつも羽織っている毛皮だった。
「これ…」
「寒いんだろ。それじゃ不満だってのか?」
相変わらず視線を合わせようとしないヴェルグの言葉に、コノエはぶんぶんと首を横に振る。
「嫌じゃない。これがいい」
ぎゅっと毛皮を抱きしめると、ほのかにヴェルグの匂いがして、コノエはくるくると気持良さそうに喉を鳴らした。
そして、これだけでは満足できないかのように、ヴェルグの足を覆っている毛皮にも身を擦り寄せる。
コノエを膝の上に乗せるかたちになったヴェルグは、またぐしゃぐしゃと自分の髪を掻いた。
(ったく、ガラでもねえ…)
今まで大嫌いだったはずのこんな甘ったるい空気に、自分も喉を鳴らしたいほど気持よくなっているとは。
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