宣戦布告 2
「ん、ん…」
部屋に響く、コノエのくぐもった声。
バルドとコノエの自室。そこでは、己のつがいの熱を懸命に口に含む、まだ幼さが残る賛牙の姿があった。
バルドがライを振りきり、コノエを自室へ連れ戻したのが数刻前。
扉に鍵をかけ、バルドはライにした事と同じ事をするようにコノエに要求した。
コノエはライとの行為の直後で身体が悲鳴をあげていたが、そんな事に構ってはいられなかった。
ここで拒否などしたら、間違いなくつがいの関係を解消されてしまうだろう。
コノエは黙って頷くと、バルドの下肢を覆う布をくつろげ、バルドのものを取り出し、同じように舌を這わせた。
「…………」
舌で愛撫を繰り返しながら、コノエがバルドを見上げる。
いつもなら、こんな事をしている時は、からかってくるか、優しく髪を撫でてくれるというのに、バルドはなにもしてはこない。手の中のものは熱と硬さを帯び、高められているのは確かなのに。
何かをしてくるどころか、感情のない視線で見つめ返されて、コノエは思わず視線を逸らした。
(やっぱり、怒ってる…)
当り前だ。
ライがどこまで話したかはわからないが、最終的にはライを受け入れてしまったのだから。
無心にバルドの熱への愛撫を繰り返す。
「…っ」
バルドは息を詰めると、コノエの髪を掴み、口を離させた。
「あ…っ」
バルドのものが口から離れると同時に達し、コノエの白い顔を汚した。
ライの時と同じく、白濁が頬を伝う。コノエはそれを指に撮ると、そっと口に含んだ。
「………」
バルドは今だコノエを見下ろすだけで何も言わない。
コノエは意を決し、口を開いた。
「その…、怒ってるか…?」
コノエが恐る恐るバルドを見上げる。
「ん…?さあなぁ…」
「…っ」
頭を掻きながら気のない返事をするバルドに、コノエの限界がきた。
大粒の涙が溢れ出る。自分が悪いとわかってはいるが、これ以上バルドに冷たくされるのには耐えられなかった。
普段滅多に泣くことのないコノエの涙にバルドはバツの悪そうな顔をすると、コノエの頬に手を寄せ、親指で涙を拭い取った。
嗚咽をあげだしたコノエを抱き寄せ、優しく髪を撫でる。
「すまんすまん、意地悪しすぎたな…」
「…っ、バルド…っ」
やっと触れてきてくれたバルドにしがみつき、子猫に戻ったように啜り泣く。
「ごめん、俺…、…っ」
「お前さんは何も悪くない。こんな時期に独りにした俺と、それにつけ込んだライが悪いんだからな」
「………っ」
ぽんぽんと背中を叩かれ、嫌われたわけではないと知り、コノエは安堵し、しがみつく腕を緩ませた。
「ほんとに、ごめん…」
すん、と鼻をすすり、バルドを見つめる。バルドはつがいの愛らしい仕種に目を細め、少し腫れた目元を舌で拭う。
そのまま頬へ、唇へと舌を這わせると、コノエは薄く唇を開いた。迷わずそこへ舌を入れ、深く口付けた。
「ん、ん…」
コノエは自分から舌を絡ませ、必死にバルドの口付けに応える。飲みきれない唾液が顎を伝うが、それでもかまわずバルドの首に手をまわし、口付けに没頭した。
「ん…っ、あんたは発情期は…」
バルドに抱きついた時に身体に触れた熱。それは先ほど放ったばかりだというのに、今だ熱を持っていた。
自分の発情期がきたのなら、つがいであるバルドもほぼ同時期に来ているはずだ。
「ああ、まあ…、お前さんは身体が辛いだろうから、今回は自分でなんとか…………って、おいおい」
バルドが言い終わらないうちに、コノエはバルドのものへ手を伸ばした。
やはり熱い。発情期がきているのは間違いない。
コノエはバルドの制止も聞かず、自分の下履きを降ろすと、バルドに跨がるかたちで上に乗ってきた。
「コノエ…」
「いいから、俺は大丈夫だから」
そう言うと、ゆっくりと腰を落とし始めた。
先程までライのものを受け入れていたとはいえ、発情期が終わった身体でいきなり大きな肉を受け入れることに、身体が抵抗をみせる。
それでも構わず、コノエはバルドのものを深く銜えていった。
「…っ」
後始末をする前に部屋に連れ込まれたせいで、中に残っていたものが腿を伝う。その感触に眉をよせながらも、コノエは最後まで入れ終わると、緩く腰を動かし始めた。
「あっ、あぁ…っ」
バルドの腹に手をつき、ぐちゅぐちゅと淫らな音をたてながら挿入を繰り返す。
顔と肢を白濁で濡らし、なまめかしく自ら腰を使い、雄を飲み込んでいく己のつがいの姿に、バルドは低く唸ると、繋がったままコノエを押し倒した。
「あっぁぁぁ、んん…っ」
突然、挿入の角度がかわり、甘い衝撃にコノエがのけぞる。
その喉にある、自分が付けたものではない痕にバルドが軽く牙をたてると、コノエの身体が震えた。
よく見ると、その痕は喉や胸だけではなく、白い腿の付け根にまで散っていた。
コノエの肉体を味わい尽くしたと主張するような痕1つ1つに、口付けていく。
「んあぁ…っ」
痕をたどる度に、コノエの身体がビクビクと痙攣する。
こんなにも艶かしく感じる姿を他の雄にも見られたのかと思うと、バルドは腹がにえくりかえる思いをした。
「あっ、あ…んぁっ、あ…っ」
中に残っている白濁を押し出さんばかりに激しく腰を打ち付ける。悔しくもそれが中の滑りを促し、コノエを傷つけることにはならなかったようだが。
濡れた水音をたてながら強く挿入を繰り返し、同時に身体中へ愛撫をすると、強すぎる刺激に、コノエは悲しさからではない涙を流した。
「あっ、あぁぁ…っ、もう……っ」
限界を訴えるコノエに一層深く肉塊を打ち付ける。
ひっきりなしにあがる鳴き声に煽られ、バルドはコノエの中へ白濁を注ぎ込んだ。
「んん…っ」
それとほぼ同時に、コノエも自らを解放した。
達した後、すぐに気を失ってしまったコノエを抱きしめながら、淡い色の髪をすいてやる。
普段から、発情期の時であっても、自ら舌を絡ませてきたり、ましてや上に乗ってくることなど、コノエは恥ずかしがって滅多にすることがない。
それが今回は大盤振る舞いだった。
コノエが必死になってバルドへの想いを行動に示してきたのだ。
そういった面を見れたということに関しては、ライに感謝するべきかもしれない。
しかし。
「それにしては代償が大きすぎる…」
この愛らしい猫が乱れる姿を見ていいのは、自分だけだ。
たとえ、かつての養い子でも、許すわけにはいかない。
バルドはそっと、ぐったりとしたコノエを寝台に横たわらせた。
ただでさえ恋敵の多い状態。
それで宣戦布告までされてしまったら、余計に目が離せなくなる。
さて、どうするか。
ライがコノエを奪おうとしていることを、昔からコノエを慕うあの黒猫が知ったら、間違いなく黒猫も参戦してくるに違いない。
モテる嫁をもらった雄は辛いなあ、と、小さくバルドがぼやいた。
|
|