恋がとまらない

コノエがリークスの闇に苛まれることは、多々あった。
それは夢であったり、ふとした瞬間に訪れる慟哭であったり。
夢であればうなされる。それ以外では、突然瞳が虚ろになったり、激しい苦しみに立っていられなくなったりと様々だ。


だが今日はいつもと様子が違った。


朝、いつものように寝起きの毛づくろいをしている時、ピクリと一瞬身体を震えさせた直後、コノエの動きが止まった。
「おい?」
腕を口元につけたまま微動だにしないコノエに気付き、ライが近づく。顔を覗き込むとコノエの瞳から光が失われており、何も映していなかった。

捕われたか。

“コノエ”を呼び戻そうと、ライがコノエの肩を掴む。
すると、コノエがぼうっとした瞳のままライを見上げてきた。
「ライ…」
とろんとした瞳で、頬を上気させ、肩に置かれた手にしがみついてくるコノエに、表には出さないものの、ライは少し狼狽えた。
あきらかにいつもと様子が違う。
そんなライをよそに、コノエは熱っぽい息をはいた。
「どうしよう俺…、おかしくなった」
耳を小刻みに震わせ、苦痛とも恍惚ともとれる表情をみせる己のつがい。
朝からそんな刺激的な顔を見せられてはたまったものではない。
…ではなくて。
なんだかいつもと違う感じだが、リークスに捕われているのは確かなので、再度名前を呼ぼうとした所、コノエの衝撃的発言によってそれは阻まれた。
「好き、なんだ…。好きなんだ、どうしようもなく。好きすぎて胸が痛くてたまらない…」
「――――!」
突然の愛の告白にライが絶句する。
普段、そう想うことはあっても決して口にする事のない賛牙。(ライもだが)
顔を赤くし、瞳を潤ませ、苦しそうにしているコノエに、ライは今度こそ狼狽えた。
何かしら返さないとまずいだろうかと思い、コノエの唇に触れようと顔を近付ける。
己のそれと重なる直前、コノエがまた口を開いた。



「好きなんだ…………シュイのことが」



…。

………。

…………………。

なんだって?



「おい、馬鹿猫…」
いつもより低い声に、コノエが悲しそうな顔をする。
「だからおかしくなったって…。歌うたいは俺の父さんなのに、なんで…」
好きすぎて耐えられないと、ほろほろと涙を流すコノエ。
どうやら今回は、リークスの『シュイ・ラ・ヴ・v』な部分が表に出てきたらしい…。
コノエの意識ははっきりとしている。気持ちだけが引きずられてどうしようもなくなっているのは分かる、が。
当猫の父親とはいえ、他の雄を想って恋情に身を焦がすなど、ライには到底耐えられるものではなかった。
さっさとこの鬱陶しい闇を払って、己のつがいを取り戻さなければ。
ライは寝台に座っているコノエをそのまま押し倒し、その上にのしかかった。
服に手をかけたとたん、コノエが激しく抵抗し始めた。
「だめだ、ライ…、俺にはシュイが…」
怯えた顔をする賛牙にかなりムッとする。
「それはリークスの記憶だろうが、馬鹿猫」
「そうだけど、やっぱり俺……ん…っ」
ライはうるさい口を己の唇で塞ぎ、さっさと服を脱がせ始めた。

いつものように苦痛を感じる闇よりはマシなのだろうが、今後もこんな事があるのかと思うと頭が痛くなる。
そんな事を思いつつ、ライは甘い声をあげはじめた賛牙に、没頭した。