ツイログ 1
・フリーワンライ(@freedom_1write)「10年前の手紙」「欠けた指輪」
それは時を止めたかの様に、当時のままの姿で残っていた。
戦いの中で崩れてしまったのか、もともと廃墟として此処に存在していたのか。初めて訪れた時から廃墟だったのでそれはわからない。
崩れかけた壁は倒壊する事もなく、あの日のまま。ジタンは目深にかぶったフードを降ろすと、迷いのない足取りで建物の一角へと進んで行った。
そこは風を防ぎ、身体を休めるには丁度いい場所だった。ジタンはかつて此処で野宿をしていた事がある。
その時に見つけた壁の穴。
ジタンがその穴に手を入れると、指先に何かが触れる感触がした。それを穴から取り出すと、建物と同じく変わらずそこにあった物に苦笑をもらした。
「まだ残ってたのかよ」
こんなもの、朽ち果ててしまえば手間もかからなかっただろうに。
そう思いながらジタンは中身を確認した。
中に入っていたのは封筒に入った一通の手紙。そして古い、欠けた指輪だった。
十年前。折り合いの悪かったレオンとジタンが漸く距離を縮めてきた頃。
期間にして三ヶ月ほどだろうか。二人が別行動をしていた事があった。当時の仲間達との作戦の一環で二手に別れる事となったのだ。
当初の予定は一ヶ月。しかしそれが延びるにつれ、ジタンに焦りが出てきた。連日の戦いに、夜は気絶するように眠る。恐らくはレオンのほうもそんな状況だったのだろう。
出立の日、何も言葉を交わせなかった。長期間離れるのは初めての事で、互いになんと言えば良いのかわからなかったのだ。
今でも別行動となれば「また後でな」程しか声をかけないが、それは必ず帰ると互いを信頼しているからこそ言える言葉。しかし当時の二人には、まだそれがなった。
このまま死んでしまったら、あいつはどうするのだろう。そんな事を考えたのは一度や二度ではない。
レオンは失う事を恐れ、他者と距離をとってしまう男だった。
彼の過去に何があったのか。ジタンは勿論の事、記憶を失っているレオン自身もわからなかった。それを知ったのは更に一年以上が経過した後の事で。
最初こそジタンを拒絶していたレオンが、傍らに居る事を許すようになった。───口は素直ではないが───
それなのに自分が先に逝く事になったら、彼にどう思われてしまうだろうか。
だからジタンは手紙を書いた。帰って来ないジタンを探して此処へ辿り着いた時に見つけてくれる事を信じて。
当時、防具の一部として身に着けていた指輪は、戦いの最中に一部が欠けてしまっていた。危ないから新しくしたらどうだとレオンに注意されていたそれを、この手紙がジタンのものであるという証として手紙と共に封筒に入れて。
ジタンのそんな想いは杞憂に終わり、二人は無事に再会を果たしたのだったが。
十年ぶりに此処に来るまで、ジタンは手紙の存在を忘れていた。
ジタンは手紙を開ける事なく、破り捨てた。
何を書いていたのかはよく覚えていないが、見なくても分かる。しょうもない内容であったと。
十年が経ち、唯一無二の相棒と自負する二人は互いの強さを認め、離れていても再会を疑わない。
そしてジタンは、レオンより先には逝かないと誓ったのだ。
だからこそ、こんな手紙は不要だった。
───先に逝く自分の事など忘れて欲しいと書いた手紙など。
空を舞う白い紙を見上げていると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。
ジタンは最後に残った指輪を投げ捨てた。そしてそれが地に落ちる瞬間を見届ける事なく、踵を返した。
親友の元へと帰る為に。
|
・フリーワンライ(@freedom_1write)「誘惑の果実」「毎食後の薬」
「今日はデザートがあるのか」
「お、ラッキー」
野営地での昼食の後に配られたのは桃だった。
食料を調達しに行った仲間達が見つけたのは桃の木で、丁度熟れて食べごろだったそれが食後のデザートとして出されたのだ。
実りの時期でないとありつけない果物に、ティナはもちろん他の戦士達も嬉しそうに口に運んでいく。ジタンとレオンも例外ではなかった。
「レオン、お前の余ったら食ってやるからな」
「生憎、果物は嫌いではない」
自分の分も食べ終わっていないというのに相手の物を強請ってくるジタンを無視し、レオンは黙々と桃を口に運んでいく。そんなレオンにジタンは「けちー!」と肘で小突いた。
それにレオンは溜め息をつくと、フォークで桃を一切れ取り出し、ジタンの口へと突っ込んだ。
「…むぐ」
「ほら、やっただろう。次はお前が寄越せ」
「なんだよ、仕方ねーな」
そう笑いながら今度はジタンがレオンの口に桃を一切れ運んでいった。
端から見たらいちゃつき食べさせ合っているように見えるそれは、本人達には全くその意識はない。仲間達は最初こそ二人の関係を疑ったものだが、今では日常の光景としてすっかり慣れてしまっていた。
そして最後まで食べさせ合いをしていた二人は、食事が終わった後にそれぞれの食器を回収し、水場へと持って行っていた。この日はジタンとレオンが片付けの当番だったからである。
桃はまだたくさんある。しかし足が速い為、食べきれない分はジャムなどにすれば良いかなどと話をしながら食器を洗っていた。
「あ、そうだ」
食器を半分ほど洗った所で、ジタンがある事を思い出した。
そして周辺に人がいないかを確認し、隣にいるレオンの顔を覗き込む。
「食後のキス、してない」
「…ああ」
そういえばとレオンも思い出した様で、顔を近づけてきたジタンの唇に己のものを押し付けた。
何度か角度を変えながら唇を合わせ、唇を離した時にレオンが「だから調子が悪かったのか」と呟き、ジタンが笑った。
「なんだよ、それ」
しかしジタンも、習慣となっているそれをしないというのは、確かに心地が悪い気がした。
そして再度唇を合わせる。今度は舌を差し入れ、深いキスを。
川の水が流れる音に混じって、二人の唾液が混ざる濡れた音が鼓膜を刺激する。それがやけに大きく聞こえ、二人はキスに没頭した。
「…はっ」
やがて舌から糸を引きながら離れ、至近距離で見つめ合う。
「…桃の味がした」
「俺も。これからしばらくはこの味かもな」
つい没頭してしまったのは、この果実の味が原因なのかもしれない。
二人はお互いの額を擦り付けながら、くすくすと笑った。
|
・フリーワンライ(@freedom_1write)「可愛いのはお前の前でだけだ」
朝靄の立ちこめる早朝。レオンは川で汲んで来た水で簡単に顔を洗い、残った水で髪の寝癖を直していた。
夜通し火の番をしていた仲間はテントに戻り、既に休んでいる。いま起きているのは朝の食事当番くらいだろう。十人もの大所帯となると、食事の準備にもそれなりに時間がかかってしまう。
「…おはよ」
そんな早朝に珍しい声がした。レオンにタオルを差し出しながら眠そうに挨拶をしてきたのはジタンだった。
今日は進軍の予定はなく、こんな時間に起きる必要はない。そうなると決まってジタンは惰眠を貪り、なかなか起き出さないというのに。
「なんか目、覚めちまってさ。隣にお前がいないから二度寝もなーと思って」
いつも寄り添って眠っている所為だろう。眠気よりも独り寝の淋しさが上回ったジタンは渋々起き出してきたというわけだ。
ジタンは空いた桶に水を張り、顔を洗い出した。サイドに流れる髪に水が付き、金の髪が輝いて見える。
顔を拭き終えたジタンは、ブラシと櫛をレオンに手渡した。そして近くの岩場に背中を向けて腰掛ける。
髪を結え、という事だろう。
ジタンは時々こうやってレオンに甘えてくる。髪結いを求められるようになった当初はとても不格好に結ってしまい文句を言われたものだが、もう慣れた。
レオンはジタンの後ろ髪を手に取ると、毛の流れに沿ってブラシを入れていく。やや癖があり寝起きで絡まっていた髪だったが、それはすぐにさらさらと指から溢れるようになった。
きつく結ぶと「痛い」と文句を言われるのも承知の上。少しゆるめに髪をまとめゴムで結び、ジタンの肩を叩く。『もう終わり?』と言いたいような目でジタンが顔を上に向けてレオンを見上げた。
「もうちょっとブラッシングしてほしかったなー」
「…それよりも、忘れてる事があるだろう」
「…?」
見上げたままジタンが不思議そうな顔をすると、レオンの眉間の皺が深くなる。ポーカーフェイスなレオンがこうして感情を表に出す姿はあまり見られない。
「……ああ、もしかして」
漸く眠気から覚めたらしいジタンが、青緑色の瞳を細めながら微笑む。
「おはようのキス?」
その言葉にレオンの眉間の皺が増々深くなる。正解らしい。『おはようのキス』をし忘れているジタンにレオンは拗ねているのだ。
「可愛いやつだなぁ…」
そんな事で拗ねるなんて、とジタンがくすくすと笑う。これが逆の立場ならジタンも拗ねるだろうに、自分の事は棚に上げて。
「お前からしてくれよ」
顔を後ろに逸らして見上げたまま、ジタンがキスを求める。
レオンは前へ屈み、目を閉じたジタンの唇にそっと己のものを重ねた。触れるだけのキス。
そしてすぐに唇を離し、身体は前に屈んだまま至近距離で見つめ合った。
目を開いたジタンは先程と同じく、くすくすと笑っている。
それに対し、今度はばつの悪そうな顔をしたレオンがぼやいた。
「可愛いのは、お前の前でだけだ」と。
重いもよらぬ言葉にジタンが驚く。
そしてその唇が言葉を発する前に、レオンは再度唇を落とした。
|
|