リボン
「ジタンにこれ、あげるっス」
それぞれのパーティーに別れ、周辺の調査に出ていた日の夕方。
最後に戻って来たのはティーダ、フリオニール、セシルの三人。リーダーであるWOLに報告を済ませると、先に戻っていたジタンの元にティーダが駆け寄ってきた。
そして先程のセリフと共に、ジタンに差し出された紐状の物。
「これは…リボン?」
「敵が落としていったっス!」
にっと白い歯を見せて笑うティーダに渡されるまま赤いリボンを受け取ったジタン。
リボンといえば強力なアクセサリーのはず。自分がもらっていいのかと訪ねると、「女のコが身に付けてこそっスよ!」と明るく返された。
「サンキュー、有り難くもらっとく」
ジタンがそう返すと、ティーダはすぐにその場を離れていった。
ただそれだけの、なんという事もないやりとりのはず。
しかしその一部始終を見ていたスコールは手に持っていた物を握り絞めると、それを無造作にズボンのポケットに突っ込み、踵を返して行ってしまった。
「んー…」
それから暫くしてテントに戻ったスコールは、床に寝転がりながら先程のリボンを見つめているジタンに出くわした。
ジタンは枕をクッション代わりに抱き、リボンをひらひらと揺らしながら物思いに耽ている。時折そのピンク色の唇から物憂げな吐息が漏れ、スコールの心臓を跳ねさせた。
悪い、意味で。
さすがのスコールも『男性が女性にアクセサリーを贈る』という行為が与える印象がどんな物かは分かっている。
恐らくティーダに他意は無い。リボンは女性が身に付けるもの。そう思っていた時に最初に会ったのがジタン。ただそれだけの事だろう。
しかし贈る側の意図はどうであろうと、問題は受け取った側の気持ちである。
この世界において、性別は重要な意味を持たない。男女関係なく戦士は同等に最前線に送られる。ジタンはもちろん、ティナもそうだ。
つまりは普段から女性として特別に扱われる事は滅多にない。せいぜいが着替えや水浴びに気を使われるくらいだろう。
そんな中で、こんな風に女性扱いされる行動をとられたりしたら、相手を異性として意識するようになっても仕方ないのではないか。
スコールが危惧しているのはそれだった。
そんな事を悶々と考えていると、漸くジタンがスコールの存在に気がついた。リボンを持っていた手を降ろし、寝そべっていた身体を起こす。
「丁度良いや。相談があるんだけどさ…」
「…『それ』についてか」
「ああ?うん、そうだけど、よくわかったな」
ジタンが手にしているリボン。それ以外の何があるというのか。
これから恋の悩みでも打ち明けられるのだろうか───。スコールの覚悟ができぬまま、ジタンは無情にも口を開く。
しかし出て来た言葉は、スコールの予想の斜め上をいっていた。
「これ、ヴァンとオニオンのどっちに渡せばいいかな」
「…は?」
「だから、ティナに渡したいんだけどさ。折角だからティナといいカンジの奴に渡してもらおうかなーって」
「……ティナに?」
「赤だったら俺よりティナのほうが似合うじゃん」
ジタンが悩んでいたのはそれだった。
ヴァンを気に入っているティナと、ティナに恋心を寄せているらしいオニオンナイト。
どちらも応援しているジタンは、リボンをプレゼントする大役を選ぶという事に苦悩していたらしい。
「…はぁ」
「いま下らないって思っただろ!?…うーん、今回はオニオンかなー」
スコールの溜め息の理由はそれではないのだが、渡す相手を決めたジタンがリボンを荷物袋に仕舞う姿を見て、それもどうでも良くなってしまった。
ジタンはティーダに対し心情の変化はなく、そのリボンを身につける気はないらしい。
それならばと、スコールは一度ポケットに詰め込んだ物を取り出した。
「あれ、またリボン?」
スコールが取り出したのは、先程ジタンが仕舞った物と同じリボンだった。
しかし色が違っている。スコールが持っていたのは青いリボンだった。
「俺も今回の戦闘で手に入れていたんだ」
「…俺に?」
「この青を見た時に、お前の髪と目の色に良く合うだろうと思って…」
その言葉にジタンは驚いたような顔をした。
一度視線を泳がせ、すぐにスコールに向き直る。そして目尻を僅かに赤くし、スコールの持っているリボンに手を伸ばした。
「サンキュ。…嬉しい」
嬉しそうに笑うジタンに、先程とは真逆の意味でスコールの心臓が跳ねる。
普段は性別を間違えたのではないかと思う程に男勝りな面が多いくせに、時折こうやって柔らかな笑顔を作る。その度にスコールの鼓動が早くなり、まさしく心臓に悪いのだ。
「さっきの、すっげぇ口説き文句だったな」
「…?」
もらったばかりのリボンを髪に結わえ付けながら、ジタンがそう呟く。小さい声だった為聞き取れず、スコールは首をかしげた。
それにジタンは苦笑をもらす。
ジタンもまた、スコール本人の意の解さない場面にばかり振り回され、翻弄されているのだ。
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