騙されるのも
「なぁ、スコール」
小さな身体がスコールの周りをちょろちょろと歩き回っている。
「スコールさーん?」
反応のないスコールの背中にジタンが抱きつく。いつもならここで何かしらの反応が返ってくるはずなのだが、スコールは相変わらずの仏頂面のまま、無反応だった。
いつもと様子が違うのはスコールだけではない。
「なあ、俺が悪かったってば。スコール…」
ジタンはスコールに抱きついたり、擦り寄ったり、キスをしてみたりと、必死に気を引こうとしていた。しかし何をしてもスコールは反応を返さない。それにジタンは焦っていた。
こんな態度をとられたら、ジタンも常なら怒るなり立ち去るなりしただろう。
しかし今回は勝手が違っていた。
4/1。エイプリルフール。
嘘をつく日。
例によってジタンはスコールに軽い気持ちで嘘をついた。
それにスコールは見事に騙され、それが嘘だとわかると怒り出してしまったのだ。
完全に自分に非があるとわかっていたジタンは素直に謝ったが、スコールの怒りはそれでは収まらず、ジタンが何をしても無視を決め込んでいた。
「スコール…」
ジタンは眉をハの字にしてスコールにぴたりとくっつく。
スコールはジタン気付かれないように、そんな様子を一瞥した。
嘘をつかれたのは腹立たしかったが、エイプリルフールに嘘をつかれたといつまでも怒っているほどスコールも子供ではない。
とうに機嫌は直っていたが、ここでいつも通りに戻ってしまってはジタンの思う壷ではないかと思った。
そこで怒ったフリをするという意趣返しをした。触れられたりキスをされたりする度に身体が震えそうになるが、そこは全力で心を無にして耐えていた。
ジタンが何度か謝れば許してやろうと思っていたスコールだったが、思いのほか必死に気を引いてこようとしたり、それがだんだん弱々しい仕草になっていったり。ジタンには悪いが、それがだんだん面白くなってきてしまっていた。
いつも自分をからかっている仕返しだと、スコールは無視を続ける。
その後も暫くスコールにまとわりついていたジタンだが、やがて諦めたのか、その身を離した。
地面を尻尾でたしたしと叩き、ムスっとした顔になる。無視しすぎて怒らせたか?とスコールは思ったが、そうではないらしい。
「……尻尾」
「…?」
ジタンがいきなり口にした、その単語。
「……尻尾、好きなだけ触らせてやるから機嫌直せよ。それでだめなら、もう知らね…」
ジタンはスコールの隣にどかりと座り、無造作に自分の尻尾をスコールに押し付けた。背中を向けられているため表情はよく見えないが、むくれているのは確かだった。
スコールに構ってもらえないことに拗ねたらしい。
スコールの手元に投げ出された尻尾。
スコールはグローブを外し、それをそっと掴んでみた。ふわふわとした毛並みに、手のひらに伝わる体温。
くすぐったいのか、時々跳ねるような動きをする尻尾
思えば、ジタンが自分から絡ませてくる時以外、意識的に尻尾に触れたことはなかった気がする。正確には触らせてもらえなかった、なのだが。
拗ねるジタンにやりすぎを反省しつつも、スコールが怒ったのは本当だし、自分から尻尾を差し出してきているのだし………スコールはお言葉に甘えて存分に尻尾を触らせてもらうことにした。
これなら騙されるのも悪くはない、と思いながら。
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