あなたのシッポ ※「はんざいしゃ!」の別バージョン 気になることがある。というよりやりたくて仕方ないことがある。 ピョコピョコ跳ねるマントの下、たまに見え隠れする見るからにふわふわなシッポ。それに触ってみたい。 以前、マントをめくっただけで大泣きしてひと騒動だったのだから、不用意に触ったりすれば家出しかねない。そう思って耐えているのだが限界は近かった…。 「ジェイド。」 嬉しそうに名前を呼び満面の笑顔を浮かべる。 愛しい存在は今(ジェイドの中での呼び分けでいうところの)アダルトバージョンだった。室内でもしっかりとマントを羽織っているのを見て、今度新しい服を新調しようと考えつつ、視線はついシッポのあるだろう辺りに向かってしまう。 「ジェイド?具合でも悪いのか?」。 白い手が額に触れてくる。頭の中はシッポのことでグルグルとしているが、熱などあるはずがない。ない、はずだった。 「熱いじゃないか!具合が悪いなら寝ていないとだめだ!!」 大慌てでプラチナはジェイドを部屋に押し込んだ。 「大丈夫か?」 ベッドに寝ているジェイドを覗き込む手には熱を下げるための薬。手際良く看病一式セットを用意して、プラチナは完全介護体制に入った。 「何かして欲しいことがあったら言ってくれ。できる限りのことはするから。」 心配そうに覗き込むプラチナの頭の上、長い耳が悲しそうに傾いている。 「大丈夫ですから、そんなに心配しないでくださいね。」 プラチナの頬をなでてジェイドは笑ってみせるが、自分の体の変調にはジェイド自身も戸惑っていた。 熱があると言われてからどうも調子が良くない。頭はボーッとするし、目が回る。頭痛などの風邪の主症状がないのは有り難かったが、それでも晴れない気分にため息をつきたくなる。 「そういえば、今日はプラチナ様朝からその姿でしたね。」 珍しいと言いたげなジェイドにプラチナは頷いた。 「この方が手伝いをするのに便利だろう?もたつかないし転ぶこともない。それに…、お前はこっちの姿の方が好き、なのだろう?」 可愛らしいことを言うプラチナの腕を引き寄せて、半身を起こして抱きしめる。 「大きくても小さくてもどちらも好きですよ、俺は…。あなたがあなたであることに価値がある。」 本心だった。小さいプラチナは愛情行為の対象として不都合ではあるが、自分のためにと小さい体で一生懸命何かをやっている姿も好きなのだ。 「ジェイド…。」 嬉しそうなプラチナが胸に顔を埋めてくるのに至福を感じていたジェイドだったが、ここでまた激しい目眩に襲われる。プラチナに気付かれたらきっとまた悲しそうな顔をするのだろう、顔を上げられないようにその背に腕を回して引き寄せようとしたとき、ふいに手の甲に柔らかな感触が触れた。 「――――――ッ!?」 プラチナが声にならない声を上げてジェイドから離れる。 「え?俺、今…?」 顔を真っ赤にして睨み付けてくるプラチナに、自分の予想が外れていなかったことを悟り、いけないとわかっていながら表情が緩んでしまった。 「ジ、ジェイドのあほうッ!!」 瞳に涙を滲ませながらプラチナは駆けていってしまった。怒って魔法を打ち込まれなかった辺りは、きっと病気の相手への思いやりなのだろう。 ジェイドは自分の手を眺めて苦笑した。 「どうせ泣かせてしまうなら、もっとこう……。」 しっかりと触らせて欲しかった、と残念がるジェイドの頭の中はスッキリと晴れ渡っていた。 「ジェイドのあほうッ!!」 そして翌日、いつもの通りの小さい姿になったプラチナにことあるごとに逃亡され、困り果てているジェイドの姿があった。
〜THE END〜
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