「プラチナ様は、ウサギですよね・・・?」 幾度となく問われた言葉にプラチナはコクリと頷く。 「ウサギといったら、好きな食べ物はニンジンというのがお約束ですが・・・。食べます?」 目の前に出されたのは生のニンジン。皮を剥いてあるのは愛ゆえにだろう。 「・・・・・・・・・。」 黙って目の前のニンジンを見つめるプラチナにジェイドはにっこりと笑ってそれを差し出す。 おそるおそるといった感じで受け取ったプラチナは、それを小さな両手で握り締め、とりあえずとがった先をかじってみる。 「・・・・・・・・・・・・。」 苦いというより、生らしいその独特の味にプラチナは眉を顰めた。 「いかがですか?それ、取れたてらしいですよ。帰りに野菜を売っている行商人がいたので、買ってきました。」 ジェイドから『おみやげ』と言われてはさすがにプラチナもいらないと残すわけにはいかない。 「・・・・・・美味い、ぞ・・・ジェイド・・・・・・。」 顔では笑いつつも、心には暗雲が立ち込めている。プラチナとの大きさの比率で見れば少しくらいは残しても平気だろうが、さすがにひとくちふたくち食べただけで残せば怪しまれる。 「そうですか、それはよかった・・・。」 ソファに座ったジェイドの膝の上で、プラチナはニンジンの先を口に含んで少しかじってはひっそりと表情を歪める。といった繰り返しをしていた。 『これは意外と・・・・・・。』 プラチナの様子を一部始終見ていたジェイドは自分の目論みが当たったことに大満足していた。 両手でニンジンをつかみ、一生懸命大きく口を開け、それを含んでは顔を顰める。青い瞳は涙で潤んでいて。全く別の行為を連想させる。 「さすがに犯罪だよな・・・。」 ポツリと呟いた言葉にプラチナが首を傾げてジェイドを振り仰いだ。 「ジェイド・・・・・・?」 不安げな声がさらにその気分を煽って・・・。 「何でもありませんよ、さあ、どんどん食べてくださいね。さっきから全然減ってませんよ?」 その言葉に促されるように、パクリ。 「・・・・・・ぅ〜・・・。」 小さい苦しげなうなり声。 “最高です!!” 心の中でググッと拳を握り締めるジェイド。 弱みを知り尽くされているプラチナが、ジェイドにからかわれ遊ばれていることに気づく日はまだ遠い・・・。
〜fin〜
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「プラチナ様・・・・・・。」 テーブルの向かいでは、プラチナが半分眠りに落ちている。 「・・・ぅ・・・・・・?」 声に反応して長い耳がピクリと動いた。 「耳だけ立てて見せてもダメです。寝てるでしょ?」 ジェイドの言葉にプラチナは頭を振る。 「んん・・・・・・。」 「はいはい、首振ってもダメです。寝るならベッドに行きましょう。」 笑いを含んだ声で言われるとバカにされているようで嫌なのか、うっすらと目を開ける。 「おきてる・・・。」 呟くと再び隠れていく青い瞳。 「そう言われましてもねぇ・・・。」 頬杖をついて笑っているジェイドの目の前で、プラチナの体がガクンと大きく揺れた。 ゴンッ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 おでこの辺りを押さえて涙目で顔を上げたプラチナと暫し見つめあった後、ジェイドは声を殺して笑った。 「別に寝ることがいけないと言っているわけではないんですから。ね?ベッドに行きましょう?」 笑いながら言われたプラチナはジェイドの言葉にうつむく。 「ここでは・・・ダメか?」 「風邪ひきますよ?それに痛かったでしょう?今の。」 手を伸ばして頭をなでてやると、プラチナは顔を赤くした。 「ベッドに・・・部屋に行ったら、ジェイドがいないじゃないか・・・・・・。」 言うだけ言って、プラチナは長い耳の付け根を両手でおさえて丸くなってしまった。 よほど恥ずかしいらしい。 ジェイドはプラチナの愛らしい仕草とその言葉に表情を緩めた。 「それじゃあ、今日は一緒にお昼寝でもしましょうか・・・?」 その言葉にプラチナは顔を上げた。青い瞳が輝いている。 「それじゃ、部屋に行きましょうね。」 立ち上がったジェイドの先を小さなウサギが駆けていく。 ピョコリ。 跳ねるのは嬉しい時のプラチナの癖。 そして、その5分後。 ジェイドの膝を枕にして眠るプラチナの姿があった。 ぎゅっと服の裾を握り締めてくる小さな手に愛おしむようなキスを落とし、ジェイドもまた目を閉じた。 光さす部屋。 幸せな昼下がりのひととき。
〜fin〜
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