はんざいしゃ! 気になることがある。というよりやりたくて仕方ないことがある。 ピョコピョコ跳ねるマントの下、たまに見え隠れする見るからにふわふわなシッポ。それに触ってみたい。 以前、マントをめくっただけで大泣きしてひと騒動だったのだから、不用意に触ったりすれば家出しかねない。そう思って耐えてはいるが、ハッキリ言って我慢強い質ではない…。 「さ、プラチナ様。おやすみの時間ですよ。」 中庭を眺めながらいろいろな話をするのは日課だった。どんなに忙しくても疲れていてもその時間だけは必ず設けている。 「まだ眠くない…。」 不満そうなプラチナにジェイドは大袈裟に首を振る。 「ダメですよ。夜更かしなんてしたら明日の朝起きるのが大変じゃないですか。」 無理矢理に立たされたプラチナはそれでも抵抗するつもりなのか、不機嫌そうに顔を背けた。 「お部屋に行きましょう、プラチナ様。」 「……………。」 何も答えないプラチナの意地の表情に、ジェイドは気付かれぬように笑った。こういう時の特効薬。 「うわぁっ!」 プラチナが思わず声を上げる。ジェイドがその体を抱き上げたのだ。すっぽりと腕の中に収まった小さなウサギに、ジェイドは笑いかける。 「俺だってもっとあなたと話していたいんですよ。でも、そうすると明日の朝あなたとゆっくり朝食が食べられないじゃないですか。これから仕事に行かなくちゃいけない俺の、ささやかな楽しみなんですけどね…。」 見上げた先にあるジェイドの優しい顔に、頬を赤く染めながらプラチナは頷いた。 「わかってくださってありがとうございます。」 「ん……。」 プラチナがジェイドの胸に顔を埋める。 「…ごめんなさい……。」 我が侭を言ったことへの詫びだということはわかっているので、その頭を優しくなでてやった。時折こうやってプラチナは甘える仕草を見せる。それがまた愛しくて仕方ない。ジェイドはプラチナにベタ惚れなのだ。 恥ずかしさに丸まっているプラチナを微笑ましく見守るジェイドの視界の端には白くてふわふわのシッポ。感情の表われなのだろうか、微かに動くそれにとうとうジェイドは耐え切れずに手を伸ばした。 シッポの先くらいならば、偶然当たったことにして誤魔化しも利くに違いない。そう思い立ったジェイドの手は、掠るどころかシッポを掴みそうな勢いでプラチナの腰へと伸びた。 「――――――ゃッ!?」 ………誤算だった。 ジェイドは心の中で冷静にそう呟いた。 シッポに触れるだけのつもりで伸ばした手は、小さなプラチナの体には大きすぎた。シッポに触れた瞬間まではよかったのだが、その直後に嬉しい感触があった。シッポの付け根、要するにプラチナのおしりにまで触ってしまったのだ。 すぐに離れれば良かったのにそれすらできず、小さな悲鳴を上げたプラチナと目が合っても手はそのままの位置にあった。 マズイと思った時にはもう遅い。顔を真っ赤にしたプラチナの大きな青い瞳が潤み、ポロポロと涙を零し始める。 「…ひっ…く……、…ジ…ジェイドの、ヒトでなし!はんざいしゃ〜!!」 ジェイドの腕の戒めを解いたプラチナは全力で駆け出していってしまう。 「―――――――。」 自分の手を見つめ、そしてプラチナの駆けていった方向を見やり、ジェイドは茫然としていた。 頭の中で『犯罪者』という言葉がグルグルと回っている。思った以上にダメージは大きい。実際それ以外の何者でもないのだが…。 「とりあえず…、探しますか…?」 よろよろと立ち上がり、廊下を歩き出す。 この隠れる場所には不自由しない広い屋敷で、壷にすら隠れられてしまう小さなウサギを探し出さなければならないのだ。 「―――――『犯罪者』だなぁ…。」 自分の行動を振り返りしみじみと思う。子供の姿をしたウサギに、欲情こそしないものの触りたくなって歯止めが利かなかったのだ。 『末期か……?』 思い当たった恐ろしい事実にジェイドは頭を振った。 「プラチナ様〜、どこですかぁ?出てきてください、ちょっとした手違いだったんですよ〜!!」 今は忘れることにしてジェイドは屋敷内を歩き回る。 捜索は困難を極め、さらに発見後は誤解を解かねばならない。彼らが無事元通りの平穏な生活に戻るまでには一週間と半日を有した。
〜THE END〜
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