跳ねる。 「おはようございます、プラチナ様。」 部屋に入ると、プラチナはまだベッドの中だった。起きてはいるらしく、もぞもぞと丸くなっている。 「何やってるんです?」 ふかふかな毛布を剥すと、見事なまでに丸まっているプラチナがいた。しかも、先日ジェイドがプレゼントしたにんじん型の抱き枕をギュッと抱きしめて。 「いきなり布団をはがす奴があるか!!」 真っ赤な顔をして身を起こしたプラチナに軽く謝罪の言葉を述べるものの、その顔は緩みっぱなしである。 「…………。」 ムスッとしてにんじんに顔を埋めているプラチナに、必死で笑いを耐えながら小さい体をベッドに腰掛けさせる。体制を変えてもにんじんをしっかりと抱きしめている姿は思わず犯罪に走ってしまいそうなほど愛らしい。 「それじゃ、失礼しますね。」 長い髪を梳き始めると、プラチナが体を傾けてジェイドに寄りかかってきた。先日のジェイド行方知れず事件の日から、プラチナはたまにジェイドに甘えるようになった。 それはほんの些細なことだったが、ジェイドの心を和ませた。 サラサラと流れる髪に指を通し、一房だけ手に取って口付ける。プラチナが見ていたら顔を真っ赤にして逃げ出そうとするだろうが、幸いなことにプラチナの視線はジェイドの胸元にある。 わざと耳に触れるように髪をとかせば、白い耳はピクピクと動く。 「ジェイド、くすぐったい…。」 笑って身を捩るプラチナの体をしっかりと捕まえて、髪を梳き続ける。 「ジェイド。」 ふいに、どこか真剣な声で呼ばれて、名残惜しく思いながらも髪を解放する。 「―――――お前は、月が好きなのか?」 三日月のチョーカーを見ながらプラチナはポツリと言った。 「そうですねぇ、好きですよ。」 正面から覗き込んでくる青い瞳ににこりと笑いかける。 「最近は少し暖かい色をしてますけどね、俺は青銀色に光る月が好きなんです…。」 「そうなのか…?」 「ええ、あの冴え冴えとした光が…。」 長い銀糸を纏め上げる。 「…あなたみたいですよね、プラチナ様。」 囁くように言って鏡の中でジェイドを見つめるプラチナに微笑む。 「ぇ……?」 「はい、完了です。」 青いリボンで髪を結ってジェイドはその出来栄えに満足げに笑った。 おまけというように、白い耳に口付ける。 「な、何をするッ!!!!」 一気に飛びすさったプラチナにジェイドは声を殺して笑った。 「今日もいい反応ですねぇ。」 笑いながら部屋を後にする。 「まったく、アイツは……。」 今まで着ていたワンピースの夜着に手をかけたプラチナは、鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。 『俺は青銀色に光る月が好きなんです…。』 それを振り払うようにぶんぶんと首を振る。 『…あなたみたいですよね、プラチナ様。』 頭の中で響く言葉と、柔らかな微笑。プラチナは顔を真っ赤にして下がりきってしまった長い耳の付け根をキュッと押さえた。 「プラチナ様〜、ちゃんと起きてますか?お食事の時間ですよ〜〜。」 ハッと我に返ったプラチナは急いでいつもの服に着替えるとトタトタと音を立てて階段を下りていった。 書庫で過去の資料をあさるジェイドの横で、ピョコリ。 中庭に出て鳥に餌をやるジェイドの目の前で、ピョコリ。 家に帰ってきたジェイドがテラスを覗くと中庭を眺めていた背中が、ピョコリ。 「今日は一日ご機嫌でしたね。」 夕食を食べ終わったときふいにジェイドが口にした。長い耳がピクリと動く。 「………そう、だったか?」 ぎこちない動きに変化した手元は見ない振りをして、ジェイドはプラチナをじっと見つめた。 「あなたはあまり飛び跳ねないウサギさんですけどね、たまに例外があるんです。嬉しいことがあったり、ご機嫌だったりするとそれはもうピョコピョコと……。」 言われてプラチナは赤くなる。本人にとっては無意識の行動らしい。 「お前、よくそんな所を見ているな…。」 照れ隠しのせいか、口調が少し不機嫌なときのものになる。 「そりゃあもう、他ならぬプラチナ様のことですから。」 そう言って極上の笑顔を浮かべたジェイドに、プラチナは壮絶に赤くなった。 「おやおや、茹だっちゃって。可愛いですねえ。」 ニヤリと笑うジェイドを潤んだ瞳で睨み付けるとプラチナは椅子から下りた。 「もう、お前なんか知るか!!」 そう怒鳴って部屋へと向かうプラチナの後ろ姿。足音までが怒りを表わしている。 しかし、階段への廊下を曲がる手前…。 ピョコリ。 小さな体が跳ねた。 ジェイドはテーブルに突っ伏して肩を震わせている。 “可愛すぎる!!” プラチナがご機嫌だった理由はわからずじまいだったが、一日その愛らしい跳ねっぷりを堪能していたジェイドも上機嫌だった。 初めて出会った十五夜の月は黄金色 ジェイドの好きな月は青銀色 白い仔ウサギが月を見上げる。 癖を見抜ける程に見つめてくれる相手がいるのが嬉しくて…。 ピョコリ。
〜fin〜
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