トキノ×バルドEDコノエ

「こんにちは〜!」
藍閃にある宿にオレンジ色の行商猫が訪れた。手には大きな荷物。仕入れを頼まれていたものだ。
「おう、ご苦労さん!そこに置いておいてくれ」
「わかりました」
顔を出したのはこの宿の主であるバルドだ。
「この後暇なら寄っていけ。果実水くらいなら出すぞ」
「はい、ありがとうございます」
大きな手が短い髪をわしゃわしゃと撫でる。
バルドはとても気の良い猫だ。もともと猫当たりはよかった猫だが、例の一件からより気さくになった気がする。
きっかけを与えたのは、他でもない自分の親友のコノエだ。
浮かない顔をして藍閃を訪れたと思ったら、その耳尻尾は呪われて黒くなっていて。
その少し後に宿に滞在していた仮装集団が本物の悪魔だと聞いた時は驚いたものだ。
亡者が街を襲った日。バルドと共に、全ての元凶を倒しに向かった。
後からそれを聞かされた時は、思わずコノエを抱きしめてしまった。泣かなかっただけマシだったと思う。

それからコノエは宿に留まった。
他に行く所もないからと言っていたが、本当の所はバルドから離れたくないからだと思う。
作業着だとお揃いの服を仕立てて、最初は恥ずかしがっていたが、今ではもうすっかり定着していた。

宿にはコノエ目当てに来る客も多い。
あの白と黒の闘牙もその中にいる。なんだかんだと理由をつけ、又は素直に会いたいからだと言って。
そんな2匹を迎えるコノエの隣にはつがいのバルドがいて。

同じ藍閃に住むようになったのに、今までより少し遠くなった気がして寂しくなった覚えがある。





「トキノ、来てたのか!」
「コノエ!」
作業を済ませ、食堂を覗いたコノエが嬉しそうに駆け寄ってくる。そしてお互いの肩に鼻を擦り寄せた。
「最近忙しいみたいだね」
「ああ、虚ろがなくなったから、旅猫が増えて」
宿が忙しい原因はそれだけではないだろうが、あえて何も言わなかった。
「でも楽しそうだね?」
そう言うと、コノエは瞳を瞬かせた。
そして花の咲くような笑顔を見せる。
「ああ、楽しい」
この宿に来る前には見せなかった笑顔だ。


「あ〜あ、最初に見つけたのは俺なのに、悔しいなぁ」
「?」
ぎゅとコノエを抱きしめて盛大に溜息をついてみせる。コノエの服には、すっかり宿の匂いが染み付いていた。
「トキノ?」
「なんでもないよ。それより、これ」
コノエの身体を離し、袋から小瓶を取り出す。コノエの大好きなクィムのジャムだ。
「これ…」
「バルドさんには、ヒミツだからね?」
「トキノ…ッ」
今度はコノエがトキノを抱きしめた。くるくると鳴る喉が振動とともに伝わってくる。


ここに来て、バルドとつがいになって、コノエは本当に幸せそうだ。
その幸せを一番近くで見守ることができる。

それだけでもよしとしよう。