バルドEDコノエ×呪術師

この洞穴には、普段は猫一匹近寄らない。
そんな静寂の中、呪われた鍵尻尾の猫が最初に訪れたのはいつのことだったか。
あの魔術師の脅威が消え、もう呪術師を頼る理由などないだろうに、呪いの解けた鍵尻尾の猫は、以前よりも頻繁にこの洞穴に訪れるようになっていた。


「…あんた、また何か作ってるのか?」
怪し気な煙を出す鍋をかき回している呪術師の肩ごしに、鍵尻尾の猫が鍋を覗き込んだ。もういつものことなので呪術師も慣れてしまい、いちいち反応を返さなくなっていた。
鍋の中を見てコノエは顔をしかめる。
「たまには、普通に料理とかしたらどうだ?鍋って料理に使うもんだろ」
「お主がいつも持ってくるではないか」
クスリと笑われて、コノエは顔を赤くして、持っていて包みを後ろに隠してしまった。
包みの中にはバルドが作った料理が入っている。
そう、コノエは定期的に呪術師の元を訪れては、保存のきく食べ物を差し入れたり、部屋の掃除を甲斐甲斐しくしていた。
「だって、世話になったし…。何かお礼がしたいんだよ」
何で礼をすればいいのか。バルドと話をしていて思い出したのは、あの生活感のない空間だった。よくあんな所で永い間過ごしていたものだと思う。
今ではコノエの手により、棚には保存食や木の実が置かれ、あってなかったような寝台は整えられて綺麗なシーツがひいてある。
ここを訪れては呪術師の生活環境にブツブツと文句を言いつつ、少しずつ手を加え、猫が暮らすには問題ない状態まで整えていく姿を、呪術師は面白そうに眺めていた。
コノエ自身も、お礼半分、もう半分は呪術師が聞かせてくれる面白可笑しい話が楽しみで来ているのだが。

「保存食はまだあっただろ?たまにはちゃんとしたもの食べたほうがいいと思って、バルドが作った昼食を持ってきたんだ」
「ほう、これは旨そうじゃな」
バルドは猫舌な猫向けの料理も得意だ。ここまで来る間にどうしても料理は冷めてしまうのだが、バルドの料理は冷たくても美味しいのだ。
コノエは、これもまた自身が持ち込んだ食器を出し、料理を盛り付けていく。宿屋の猫として働き出してから、こういった手際はよくなった。



食事を済ませ、片付けの合間に面白い話を聞かせてもらい、コノエは帰り仕度を整えた。
てててと小走りに外へ出、ちらりと振り返る。
「また、来るからな」
少し遠慮がちに言われた言葉に、呪術師が微笑む。
「お主が来ると暇をせん。また来るがいい」
歓迎の意の言葉を聞いて、コノエは嬉しそうに笑う。




そして、上機嫌に揺れる尻尾が森へと消えていった。