子ライ×悪魔コノエ

あかい  ち が  ぽつぽつ  と




森の中で見つけたそれに、ライの丸みをおびた耳がピクリと動いた。
森の中へ点々と続く、赤い、血。
よく知っている、色。
大好きな、暖かなもの。

幼い白猫は“何が”それを流しているのか知りたくて、無意識のうちにその血を辿っていた。
獣道を進み、少し開けた所に辿り着く。
「……!」
おびただしい量の血が地面を濡らしていた。
その血を流しているのは見知らぬ大人の猫。すでに事切れている。
その猫の襟首を掴んで立っていたのは、赤と黒の衣を身に纏い、黒光りする角をもった悪魔だった。
悪魔はつまらなさそうに掴んでいる猫を一瞥すると、ドサリと地面に投げ捨てた。
ぴちゃりと、地面に溜った血がはねる。
「……」
ライはそれを見て、己の口が弧を描くのを感じた。
いつもの小動物とは比べ物にならないほどの、血の量。

――あの血を全身に浴びることができたら、どれほど暖かいだろう?

ライはすぐ側に猫ではない異形の者がいるにも関わらず、恐怖を感じることもなくフラフラとその足もとにある猫の死体へと近づいていった。
悪魔がそれに気付き、振り向く。小さな子猫が嬉しそうに歩いてくる様子にさすがに驚いたのか、赤い瞳が一瞬見開かれた。
「あたた、かい…」
地面に膝をつき、ぴちゃぴちゃと水遊びをするかのように、溜った血を手のひらで弾く白い子猫。
地に投出された白い尾はみるみる血に染まり、血に濡れた手を己の頬に持っていき擦りつければ、まるで子猫が流しているかのように全身が赤くなっていく。

「お前…」
悪魔は呆然とそれを眺めていたが、先程のつまらない契約者より面白いとわかると、興味深そうに目を細めた。
「お前、血が好きなのか?」
悪魔が血のついた手で子猫の頭を撫でる。すると子猫の白銀の髪や耳にも血が付き、全身血塗れのような状態になった。
ライは悪魔を見上げると、恍惚の笑みで嬉しそうに頷く。そして自分と同じくらいに血に濡れた悪魔の衣に身を擦り寄せた。
「面白いな、お前。感情が喜悦寄りなのが気にくわないけど…」
でも、と、悪魔が子猫の目線になるように屈みこんだ。
「その毛並みは好きだな」

どこかしこも白いモノが、血に染まる様が。

ライがきょとんと悪魔を見つめると、悪魔は妖艶な笑みを浮かべて子猫の頬に口付けた。
「お前が大人になったら、もっと遊んでやるよ」

悪魔である自分にとって、子供のリビカが成長する間など、瞬きの間だ。
大人になったこの白猫が、どれほど血に溺れるのか。

良い暇つぶしが見つかったと、悪魔は笑った。