空色のくすり

ケホ…


藍閃での道。宿に向かう途中で自分の背後から聞こえた音に、ライの白い耳がピクリと動いた。
振り向いて見ると、自分の口を押えた賛牙の姿があった。幼い色合いの尻尾が思案気に動いている。何でもないように振舞っているつもりなのだろうが、何かあったことなどバレバレだ。
「どうした」
立ち止まって訊ねても、コノエは黙って首を横に振る。
本当は「なんでもない」と言いたかったのだろうが、口を開くとまた先程の音を立ててしまうので、できないのだろう。
ライが再度歩きだす。そして後ろからは、あの音。

ケホ、ケホ…

(…風邪か)
この時期は寒暖の差が激しい。昼に暑いと思ったら、夜には肌寒くなる。そのせいで体調を崩したのだろう。
何故わざわざ隠そうとするのか。変な所で強情な己のつがいに溜息が出る。

宿まで、あともう少し。

ふと、一つの露店がライの目についた。
ライは黙って道を外れ、その露店に近づいていく。
「…?」
コノエは首をかしげながらその後を着いて行き、ライの後ろからその露店を眺めた。
そこには、色とりどりの綺麗なモノがたくさんあった。
1つ1つ紙にくるまれているもの。小さなビンに入っているもの。なにかの動物を象って、棒の先についているもの…。

飴だ。

ライが飴に興味を抱いたことに驚きを隠せないコノエをよそに、ライはビンに入っている飴を手に取った。中には琥珀色と青の2種類の小さな飴が入っている。
自分とライの瞳の色と同じだな、とコノエがぼんやり思っていると、店主に代金を払ったライが、そのビンをコノエに手渡した。
「…?」
「宿に着くまでの間、それを舐めていろ」
「……!」
コノエがはっとし、飴とライを交互に見やる。そして顔を赤くして耳を伏せた。
バレていたことと気を使われて恥ずかしがっているコノエの頭を、軽く叩く。すると、コノエはちらっとライを見上げ、己の尻尾をライの尾に絡ませた。


出せない声のかわりに、尻尾でお礼を。


ライは微かに微笑み、再度宿へと歩きだす。
コノエはその後に続きながら、ビンの蓋を開けた。
迷わず最初に口に含んだのは、青い飴玉。



愛しい闘牙の瞳と、同じ色の。