かくも平和な日々

藍閃にある、宿屋の厨房。
食堂に客がいなくなり、それぞれの部屋でくつろぐ、そんな時間帯。コノエとバルドは厨房で、翌日の朝食の仕込みにかかっていた。
バルドが朝なかなか起きないため、今のうちにできる所まで済ませておかないと大変な思いをすることになるからだ。
コノエが野菜を切り、バルドがスープを煮込んでいる。
料理のために火をおこされる事には多少は慣れたが、まだ自分で火を使えるほどではない。火を使う料理はバルド、それ以外はコノエが担当していた。最初はあまり上手く扱えなかった包丁も、今ではバルド顔負けの使いこなしだ。
規則正しく鳴っていた包丁の音が止まる。コノエは後ろに気配を感じ、振り返った。
後ろには、バルドがにやにやと笑みを浮かべて立っていた。
「……何だよ?」
こういう顔をしている時は、大抵ロクな事を考えていない。コノエは訝し気に訊ねた。
「いや、こっちの料理は終わったもんでな。気にせず続けていいぞ」
気にしなくていいと言われても、背後に立たれては気になって仕方がない。
しかし早く終わらせないと夜中になってしまう。コノエは向き直し包丁を動かし出した。
すると。


ごそり。


「――――!?」
バルドが背中に密着してきたかと思うと、手を白い前掛けの中に入れてきた。
「な…っ、なにやって…」
包丁を落としそうになって慌てて握り直す。密着されていて振り返ることができず、顔だけバルドに向ける。そこには相変わらずニヤニヤとした顔があって…。
「いやあ、若奥さんが料理してる姿ってのもいいなぁ〜と思って。ほら、こっちは気にしなくていいから、続けろ」
そう言いながら、コノエの下履きだけをずらし、中心に触れてきた。小振りなそれを軽く握り、上下に扱きだす。
「あ…やっ…、やめ…」
もう料理どころではない。
足の力が抜け崩れそうになるのを、調理台にしがみついて堪える。
片手は包丁を落とさないように握っていて、もう片手は調理台にしがみついていて、バルドの手を払い除けることができない。
「あ…ぁ…」
先端から出てくる蜜を指にからめ、わざと濡れた音をたてるようにして攻めたててくる。
コノエは耐えきれず、バルドの手の中に白濁を放った。
「はぁ…、…」
今度こそ床にへたり込みバルドを睨み上げると、コノエの放ったものを見てニヤリと笑い、直前まで切っていた野菜を1つ摘んだと思うと…。
よりにもよって、それにコノエのものを付けて、食べた。
「…なっ!なにやってんだよ!!」
「いやあ、なかなかイケるぞ、これは」




直後、宿中に女将の怒号が響きわたり。
翌日、宿の外にある木に宿主が縛り吊るされているのを見た客が、目覚めの悪い朝を迎えていたとかいなかったとか。